精神病のあの子は、ギターを片手に歌っているらしい。
安物の遮光カーテンは朝日すらろくに遮れず、襲い来るニュートリノから身を守ってくれるはずがない。
僕は、いつもよりも深めに羽布団に潜って今日が来たことを、忘れようとする。
携帯電話のアラーム1は8分毎になる。
無意識でそれを止めると、最も押しやすい位置に「スヌーズ」が来るのだ。その度に、世の中はとても上手に出来ていると思う。
音を止めたときに、積年の憎き敵将をまんまと討ち取ったと言わんばかりの幸福感に包まれ、ボケた頭はその日の予定など全て忘れて再び目を閉じる。
たった5分の幸せの為に今日1日が最悪のものになる可能性がある以上、起き上がってしまうほうが遥かに効率的なのだ。理解している。みんな理解しているんだ。それでも「そう」してしまうこともまた然りなんだ。
シャワーを浴びれば多少はましか。
放射冷却で地表と共に冷めきった血液が、再び生命の温度を取り戻していく。昨日までの後悔を温水が流してくれる。(気のせいかもしれないが)
排水口が昨日から溜まっている。
入るたびに髪の毛を捨てなさいと口煩く仰っていたお母様。僕にはそんな聖人君子のような善行は行えそうにありません。期待に応えられなくて、申し訳ない。
身体を拭くのをのたのたしていたら、直ぐに冷えてしまった。これだから冬は嫌いだ。
苛々をぶつけるように冷蔵庫をあける。兎に角お腹が空いたのだ。
昨日、親知らずを抜いたところがやけに痛んで、あまり食事が取れていない。
もともと痩せ型なのにこれ以上すり減ってしまったら、念願叶って世界から消えてしまうよ。
仕送りで貰った野菜ジュースで、痛み止めと抗生物質、不安とか寂しさと色々。無理やり流し込んだ。
煙草を一本吸って、禁煙しようとしてたことを思い出す。
今日も街へ躍り出て、烏合の衆となるのだ。
これは嬉し涙だ。間違いない。
精神病のあの子は、今日もギターを片手に歌っているらしい。
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1週間前くらいに下書きに残したままだった