Voyager

メーデーメーデー。こちら地球、日本国。人工衛星から見えるオリオン座の具合はどうですか? オーヴァー。」

 

FMのノイズがきっかり25時を告げた時のことです。

その出鱈目な救難信号を、宇宙の紳士淑女が意に介してくれるとは到底思えなかった。

 

「内容なんてどうでもいいじゃない。水族館のお魚達が何を言ってるかなんてどう頑張ってもわからないでしょ?それと同じよ。」

 

季節外れの台風をありがたがることもなく(そもそも空気がなければ気圧差なんて生まれもしない!僕達の存在には全く不可欠な奇跡だ!)六畳半の部屋に押し込められた女の子は、飲み干した野菜ジュースの缶製のトランシーヴァーに止め処なく話しかけている。

 

部屋が狭いと嘆くわりに片付けるのを嫌う。シーズンを働き終え、長期休暇に入った扇風機も相変わらず我が物顏で居座っている。

 

「何が何処にあるか知ってるの。私の部屋は散らかってるくらいが丁度いいのよ。こんなに上手くいってるのだから。」

 

元々は僕の部屋だったような気もするけれど、どうでもいいことだったのかもしれない。

この人のせいで、どうでもいい事、溢れてしまった。

朝ごはんは目玉焼きを食べなくちゃいけなかったんだけど、あの子がスクランブルエッグの出て来る漫画を読んだばかりならそんなことどうでもよかった。心地のいい、どうでもいいこと。

 

「こっちにソファがあったら、光がちゃんと遊びに来るから、洗濯物がパリッとするような気がしない?」

テレビ線があるというだけで部屋模様はこれしかないと思ってた。どうでもいいことだったのだ。えいやっと線を抜いたら、自由になったテレビ。いつもより綺麗に映画が映った気がした。

 

「昨日最後まで観れなかったあの映画、流して。」

今日も結局最後まで行かないような気がする。

それでも眠るのは恐くて駄々を捏ねてしまう。

明日になったら、また1日、終わりが近づくようで嫌なのだ。それが寿命なんてものじゃないことは、なんとなくだけど、知っていた。(不思議なことに自然と)

 

あのシーンは夢だったのかもしれないから、もう一度ちゃんと初めから。

小さな部屋で流れるサイエンスフィクションの音声が、救難信号になって広がる。

今夜は見つけてくれるだろうか。

 

切り忘れたFMのノイズが、きっかり26時を告げたときのことでした。